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▼ 孤城の吸血鬼編3

不気味な像やおどろおどろしい雰囲気はべつにこわくない。でも、もし今食人花に捕まったら。次こそきっとそのまま食べられてしまう。アレンくんを探して恐る恐るクロウリー男爵の城を歩きまわるが、まず上に通じる階段を探すところからだった。いつでも発動できるようにイノセンスに手をかけていはいるが、これにどれだけの意味があるのだろうか。やだもうラビのところに残った方が安全だったんじゃないの。いや外から何やらすごい音が聞こえるから向こうも安全ではなさそうだ。ていうかここどこ。どうやったらアレンくんのところに行けるの。やっとの思いで階段を見つけて上に上がるも、アレンくんの姿はどこにもない。アレンくんが空けた穴も見つけたのに。なぜ。

「アレンく〜ん……」

小さく情けない声でアレンくんを呼んでも、当然反応はない。大きくため息を吐いて城内の探索に戻ろうとした、その時。近くの壁がドン、と音を立てて破られ、レベル2と思われるAKUMAとアレンくんが飛び出してくる。それとほぼ同時に、一階部分にはラビに吹き飛ばされたらしいクロウリー男爵がまたも城壁を突き破ってきた。今日だけでこの城の壁穴開きすぎではないだろうか。ぽかんと見ていると、レベル2のAKUMAが突然人間の姿に転換してクロウリー男爵に駆けよっていく。そして勢い余って1階まで落ちてしまいそうなアレンくんを、大槌小槌の伸で飛んできたラビがガシ、と掴んだ。

「ようアレン」

「ラビ!!」

「ふたりとも怪我大丈夫?」

「なまえお前アレンのとこ行けって言ったじゃん」

「アレンくんがどこにもいなかったの!」

完全に呆れた目でわたしを見たラビに、慌てて反論する。本当に…いなかったんだよ。見かねたアレンくんが僕なんか隠し部屋みたいなところにうっかり入っちゃって、とフォローしてくれた。隠し部屋って。そんなの見つかるはずないじゃん。アレンくんこそ迷子のプロだった。どっちもどっちと言いたげなラビがアレンくんを見て、左目が治っていることに気付く。続いてクロウリー男爵と駆け寄ったAKUMA(先程のエリアーデという女の人だった)に視線を向けて、硬直する。おいアレン、と固い声でアレンくんを呼ぶラビに釣られて彼らに目を向けると、どくん、と心臓が跳ねる。エリアーデから出ているように見える、何か。ラビにも、クロウリー男爵にも同じものが見えているようだ。AKUMAに内蔵された死者の魂。アレンくんの呪われた左目に見えているというそれが、わたしたちの目にも同じように映っているのだろう。どうして。アレンくんの治った左目のせいだろうか。アレンくんは、こんな世界をいつも見ていると言うの。こんなものを見せられて、それでもエクソシストとして生きることを決めたと言うの。クロウリー男爵に見られたことをきっかけに、エリアーデは再び転換して、男爵に襲いかかった。

「ヤベェさ!クロちゃんさっきオレとバトってヘロヘロだった!!助けねぇと………っ」

クロちゃんとはクロウリー男爵のことだろうか。また変なあだ名つけてる。ラビはアレンのこともちょいちょいモヤシって呼ぶしブックマンのことはパンダとかジジイとか。確かにクロウリー男爵って呼ぶのは長いけれど。とりあえずAKUMAに襲われている彼を助けなければ。そう一歩踏み出した時、勢いよく床から食人花が飛び出してきて、わたしたちは再びとらわれの身となってしまった。

「花が床をブチ破って来なさった!?」

「そんな予感はしてたけどー!!!」

「まだあったんかー!!!」

次から次へと出てくる花たちにもう諦めの境地だ。先程アレンくんには怒られてしまったが、この状況では仕方ないだろう。両腕を巻き込んでぐるぐる巻きにされているからイノセンスも発動できない。大量の花のせいでクロウリー男爵とエリアーデの様子はわからないが、戦闘していると思われる破壊音だけ聞こえ続けていた。花に抵抗しようと暴れるラビが真っ先にぱっくりいかれている。わ、わたしもああなるんだ…。ぱっくりされてなお、花の口の中で暴れるラビに、アレンくんが呼びかける。

「ラビー!!落ち着いて僕の言うとおりにしてください」

「アホか!落ち着いたら喰われる!!」

しかしアレンくんはこの花を昔世話していたことがあるらしい。つまり、花たちを止める方法を知っているのだ。なまえも諦めてないでよく聞いて、と言われるので必死に頷く。花に食べられる最後は本当に格好悪過ぎて嫌だ。いつも言ってる死にたくないとはまた別の意味で嫌だ。なんでも、この花は好意を持つ人間には噛みつかないらしい。だから、心を込めて愛情表現をすれば助かる、と言うアレンくん。植物には話しかけると綺麗に咲くっていうもんね…。そういうやつかな。綺麗、とかそういうやつでいいのだろうか。そう口に出そうとした時、ラビの絶叫が響き渡った。

「I LOVE YOUー!!」

ねえそれは違くない?そう思ったものの、愛を叫び続けるラビがゆっくりと花の口から出てくるのを見て、本当に効果があることを確認した。

「愛してる愛してる愛してる…なあオレらイタくねェ?」

「でもホラ花が噛みついてこなくなりましたよ!」

「そうだよ頑張ってラビ!」

「お前らも言えよ!!」

こういうのは向き不向きがあるから。アレンくんと一緒にラビの奮闘を眺めていると、ぽつ、と顔に水滴が落ちてくる。城の中だというのに、雨だろうか。本格的に降り始める雨に、ようやく自由の身となったわたしたち3人がAKUMAと戦っていたクロウリー男爵の様子を見に行くと、AKUMAは破壊され、クロウリー男爵はただそこに佇んでいた。アレンくんが彼の名前を呼ぶも、反応はない。

「このアホ花…ブス花クソ花グロ花ウンコ花ー!!!」

かと思えば突然思いつく限りの暴言を花に向かってぶつけるクロウリー男爵に、お怒りになった花が再びわたしたちに噛みつく。ひいいい!と絶叫するわたしたちがクロウリー男爵を止めようとするが、うるさいである、と一喝されてしまう。

「私はエリアーデを壊した…もう…生きる気力もないである…」

わたしたちを巻き添えにしての自殺だった。わたしはまだ死にたくないんだけど!死にたい、と告げるクロウリー男爵の胸倉を、アレンくんが掴んで引き寄せる。

「そんなに辛いならエクソシストになればいい」

愛する女性を手にかけたということがつらいのならば、エクソシストになってこれからもAKUMAを壊し続ければいい。それがエリアーデを壊した理由になり、理由があれば生きていける。クロウリー男爵にそう告げるアレンくんは、わたしには眩しかった。だって、わたしには生きる理由なんてない。死にたくない。それだけのために生きているのだ。自殺を選ぶほどに愛していた相手を自分の手で壊して、それを背負い続けるなんて、ただ辛いだけの生き方じゃないか。神の使徒という、呪い。その呪いにわたしたちエクソシストは、蝕まれ続けるのだ。アレンくんの言葉に落ち着いたクロウリー男爵に、ようやく花から解放されてクロス元帥の話を聞くと、やはりクロス元帥はここに来て、食人花の赤ちゃんを置いて帰っていったらしい。それもしっかりクロウリー男爵からお金を借りて。実はイノセンスだったその花に噛みつかれたクロウリー男爵はその時から寄生型の適合者となったようだ。エクソシストとしてわたしたちと一緒に来ることになったクロウリー男爵は旅支度をしてくる、と言ってわたしたちを城の外に送りだした。言われた通り城の外でラビとアレンくんが話していて、わたしはただそれを聞いている。アレンくんが彼に与えた理由は、前向きなものではないけれど、それでも、彼には理由が必要だったのだと。そう言うラビに、自分の表情がどんどん曇っていくのを感じる。俯くわたしに気付いたアレンくんとラビが、体調が悪いのか、と心配そうに尋ねてくる。体調が悪いわけじゃない。でも、黒い靄のようなものがずっと胸のあたりにかかっていた。

「………わたし、わからないの」

「……なまえ?」

「そんなにも、人を好きになれる気持ち。自分よりも、他人を大事に出来る気持ち」

わたしにはずっと、わからない。他人はずっとこわいものだった。戦え。聖戦に勝利しろ。神に選ばれたのだから。教団に連れてこられて以降、ずっとそう言われ続けた。嫌だ。戦いたくない。こわい。そう言えば周りから白い目で見られて、エクソシストのくせに、と言われる。わたしが望んだことなんて、ひとつもないのに。こんな世界を、どうやったら大切に思えるというのだろうか。こんな世界で、どうやって人を好きになれるというのだろうか。そんな理由がなければ生きていけないほどに他人を愛するということが、わからない。そんなにも愛されるということも、また。ぽつり、ぽつりと心の内を吐露していく。

「なまえのこと好きなひとはいっぱいいるよ。僕も、リナリーだってそうだ」

俯くわたしの顔をアレンくんが両手で包み、上を向かせる。じ、とわたしの目を覗きこむアレンくんの瞳が近い。嘘を吐いているようにはとても見えなかった。本当に、わたしのことを好きだと、大切だと、思ってくれている。

「だから、一緒に探そう。なまえが大切にできるものを、これから」

一緒に。そう言って笑ったアレンくんは、わたしの話を聞いて、受け入れてくれたあの夜のように、優しく輝いて見えた。

「まぁ、焦ることもないんじゃね?生きてりゃ、そのうち見つかるさ」

「難しく考えすぎですよ」

笑うふたりに、小さく頷いた途端、クロウリー男爵の城が大きな音を立てて爆発して燃え盛る。まさか。そんな考えがわたしたちの頭を過った。しかし、城の中からひとりの人影が一歩一歩わたしたちに向かって歩いてくるのが見えた。

「はは…何であるかその顔は。死んだかと思ったであるか?大丈夫である」

こうして孤城の吸血鬼、アレイスター・クロウリーはエクソシストとなった。

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